近所の要所要所に春の風物詩である桜をよく見掛ける。
せっかくなので音楽を聴きながらお酒を嗜みつつ咲き誇る桜を堪能したいのだが、まぁ人集りになるためそそくさと退散してしまうのが恒例のオチ。人が密集する場所に留まっているのはどうにも居心地が悪い...。何とも哀れなオタクである。
つい数日前に、以前から欲しいと思っていたThee Michelle Gun Elephantの映像作品を購入した。解散から10年ということで発売された『Burning Motors Go Last Heaven Ⅱ Last Heaven Tour Live at TAKUTAKU』だ。
僕は幕張公演の『Burning Motors Go Last Heaven』やlive音源である『Last Heaven's Bootleg』を持ってはいるものの、解散期をリアルタイムで経験してはいない(当時の僕は小学生だったのでこればかりはどうしようもない...)。彼らの最盛期もまた然り。だから小さめなハコでのliveの雰囲気を知ることが出来たのは何だか当時観た人間の一人になれたようで良かった。内容が素晴らしいのは言わずもがな。
ただBDとしての画質向上はあまり感じられず、多少消化不良気味な観賞に終わってしまったのも事実である。これなら、幕張公演の方がまだ映像的魅力がある気がする。
僕がJ-Rockというジャンルで何が好きかと聞かれたら、まずミッシェルと答えるだろう。
Mステで外タレのt.A.T.u.がドタキャンを起こし、ピンチヒッターとして最高にクールな爪痕を残したあの"伝説の夜"で有名なロックバンド、Thee Michelle Gun Elephant。
恥ずかしながら、この回も僕はリアルタイムで観てはいなかった。中学生になるまで僕は音楽鑑賞という趣味にそれ程熱中してはいなかったし、有名なポップスを少し知っている程度だった。
中学時代にとあるバンドを友達に教えてもらってから、徐々にロックサウンドに耐性が出来た頃、自宅でたまたま[Mステ ミッシェル]と書かれてあったビデオテープを見つけた。
おそらくバンドをやっていた兄が当時録画したものなのだろう。興味本位で再生してみることにした。
そして''伝説の夜''の回を観た時、「なんだこのクソカッケェバンドは!!!???」と声を荒げたのを鮮明に覚えている。
自分の中でにわかではあったがロックというジャンルが最高に格好良いと思い知らされた瞬間であった。
それからは彼らの作品を漁っては漁り続け、2009年にアベフトシ氏が急逝してしまい、再結成が夢のまた夢に終わってしまった今でも飽きること無く聴き続けている。
個人的に好きなのはミッシェル後期の作品である6th『Rodeo Tandem Beat Specter』だ。
勿論、彼らの最高傑作とされる4th『Gear Blues』が1番の出来なのは疑いようがないし、個人的に好きなアンセム曲のバードメンが収録されている3rd『Chicken Zombies』や、アベのカッティングが絶えることなく冴え渡っているシャンデリヤが入っている2nd『High Time』も4thに勝るとも劣らない出来だと思っている。
しかし、彼らの作品で1番ハードなのはこの作品じゃないかと思う。
ひねくれさが有りながらも彼ららしさが1番出ているガレージロック全開の初期や、パンク要素を強調させよりヘヴィな作風に仕上がった中期に比べるとバラエティ豊かな内容というよりは単調な曲が多く目立つ。
ただ、このアルバムには過去作品には見られない刺々しい雰囲気や荒涼感が漂っている。
#1のシトロエンの孤独はもうイントロからノックアウトされる。単調なリフが続くものの、段々とクセになる感じがたまらない。
#2のアリゲーター・ナイトは爽々と駆けて行く疾走曲。サビ前のギターフレーズが個人的には好き。
#3の暴かれた世界はこのアルバムの代表曲でもあるシングルトラック。「パーティーは終わりにしたんだ。」からのサビはいつ聴いても最高である。
#4のゴッド・ジャズ・タイムはこのアルバムの中で上位に好きな曲。ウエノのベースからアベのギター、そしてキュウのドラムと徐々に楽器隊が連なる展開を聴くだけで血沸き肉踊ってしまう。彼らの得意とする曲名を連呼する手法は人によっては好き嫌いが別れるかもしれないが僕は嫌いではない(洋楽でも曲名を連呼するのはよくある事だし別に大した問題でも無いのではと思うが...)。
#5のベイビー・スターダストはザクザクと刻むリフで始まるシングルトラック。キャッチーなサウンドで疾走しつつも後半にしっかりと盛り上がらせるのは良い。
#6のリタは他の曲に比べるとややスローな曲。ただ遅いだけでなくヘヴィさがあり、余韻のあるギターサウンドで締めるのは悪くない。
#7のビート・スペクター・プギャナンは少々短めのインスト曲。5thの『CASANOVA SNAKE』にあったインスト曲は正直微妙だったがこれは好き。
#8のターキーは待たせたなと言わんばかりの疾走ナンバー。ファンにとっては「宇宙はどこにもありはしないぜ 骨になってもハートは残るぜ。」の独特な歌詞でお馴染み。厨二臭いと思われるかもしれないがこれ以外にフィットする歌詞が見つからないのが彼らの良さだと思う。
#9のブレーキはずれた俺の心臓もこれまた疾走曲。少し似通ったフレーズが若干多めだが、それでも飽きさせること無く展開する良曲。
#10のマーガレットはメタリックなイントロで始まる曲。これも個人的には好きな曲だ。ギターソロや最後に出されるカッティングは悶絶する程格好良い。
#11のバード・ランド・シンディーは渋めなリフで始まる曲。他の曲よりやや一辺倒で影が薄めだが、ウエノのベースラインとアべのギターが良い感じにマッチしていて結構好きだったりする。
#12のビート・スペクター・ガルシアは不穏な空気が漂うインスト曲。次の曲に繋がる展開が良い。
#13の赤毛のケリーはミッシェル全キャリアの中でも屈指の名曲だろう。映画『青い春』の挿入歌でもある。この曲を聴くためだけでもこのアルバムを買う価値がある。叙情的なギターが全編に渡って繰り出されており、最後のギターソロは思わず感傷的になってしまう。4thのラストトラックであるダニー・ゴーや5thのドロップとはまた違う良さがあり、最後を締めるにはもってこいの曲だ。
5thを境に初期~中期のノれるロックサウンドとは打って変わって殺伐とした雰囲気が多くなり、後期ミッシェルはあまり好まないと言う人を多々見かける。彼らの意見も良く分かるし、ラストアルバムである『Sabrina Heaven』,『Sabrina No Heaven』は彼ららしさをあまり感じられない印象があり、僕も正直それ程好きではない(渋味のあるアルバムではあるし、疾走ナンバーは好きだ)。
しかし、過去のサウンドを汲みながらモダンなロックンロールを掻き鳴らしているのはこのアルバムではないだろうか。
大学に入学して間もない頃、仲良くなった友人にミッシェルの某曲と同名のバンドを好きかと聞かれ、ミッシェルだと勘違いしてしまい思わず嬉しくなって好きだと答えたところ、ミッシェル?と逆に聞き返された経験をした。知名度はそれなりにあるバンドだと思っていたのだが、少しショックだった(勿論友人の中でも知っている人は多くいる)。別に彼を批判するつもりはないが、自分と同世代の人にとって知る人ぞ知るバンドとなってしまったのは何だか悲しいものである。
現在のJ-Rockシーンに少しでも不満を感じている人が居たら、是非このアルバムを聴いてブッ飛んで欲しいものだ。